あの存在感のすごいカイラス北壁から、周回しながら登って行きます。
もうあの姿は拝めません。
ダルマラから北壁へ戻るのか、向こうへ越えて周回できるのか、
神さまの言われる通り、全てはOM応諾するだけ。
ガラガラの岩場、ガラッガラッの斜面を馬はカツカツと登ってくれています。
この馬には乗りたくない!と思ったものの、この馬にお世話になるしかない。
鞍をつかんでいる手が寒さでかじかんで感覚がない。滑り止めの普通の手袋では冷たすぎた。
でも、あまりに足場が悪くて、止まったら転げ落ちそうな岩場続きのため、リュックの中の防寒用の手袋を出してほしいと馬子さんと馬を止めることができません。
余裕がなくて、1枚の写真を撮ることもできませんでした。
この世のものとは思えない、荒涼とした、でも透明感あふれるあのダルマラへの道。
あの冷たくて険しいのに純粋なガラスや水晶をイメージさせる風景は、
きっと一生忘れることがない心の原風景になったと思います。
思っていたより早く、馬は淡々と登ってくれたので、最後の方の何名かに追いついて来ました。
馬子さんとチベット人スタッフの体力、身体能力の高さには舌を巻きました。
馬と同じかそれ以上に淡々と登ってきて、ガイドのKさんは結局川まで何往復もしてから、
「馬子さんは悪魔です!」と名言を残しながら(よくあることではなかったのか?)私たちを追い越して先に行ってしまいました。
タルチョがハタハタとはためく下をくぐったりしていると、本当に人が1人しか通れないような細い道になり、でも、ものすごいタルチョの数!すると、ガイドさんが、
「馬から降りてください。ここがダルマラです。写真撮りましょう。」
ここが最高峰のダルマ峠!約5,800メートル、ついにここまで来れたか!と胸がいっぱいです。
でも、急に馬から降りて膝はガクガクで、よろよろしながら写真を撮ってもらったら、先生が待ってくださってるとのこと。
遅くなったお詫びと、ここまで来ることができたお礼を言いたくて急ぎました。
そして聞いたのは、向こうへ降りる、周回するという言葉でした。
神さまにお任せ、と思いながら、実はあの岩場を歩いて降りるのは怖いなという思いがありました。
下りは馬は危ないので、平坦な道になるまでは歩いて降りるのです。
向こう側は比べるとまだなだらかな道だと聞いていました。歩き出して、
あ!しまった!リュックにステッキをつけたまま馬子さんに預けてしまいました。
足場が悪いので、ステッキは必需品でした。
仕方ない、そろりそろり歩いていると、宗太郎くんが自分のステッキを貸してくれました。
ありがたくお借りして、またゆっくり下り始めました。
するとどこからかまるで風のように、両サイドにチベット人スタッフがサポートに来てくれて、
2人にさらわれるようにすごいスピードで降りることになりました。
あれよあれよという感じで、風のように降りて来て休憩所に着いたらまだ数名しか来ていません。馬が来なくて最後のはずの私が、早々と休憩所にたどり着いたのでびっくりされました。
「拉致連行されてる」「宇宙遊泳状態」とか言われながら、
彼らのおかげでホッとひと息つくことができました。
お昼のおにぎりなどをいただいて(これも出発前にスタッフが作ってくれたお弁当です)
そこからはまた馬に乗るのです。
もうかなり坐骨周辺が痛くて、あぶみに足を入れると膝の角度がよろしくないため足腰が痛くなり始め………もうカイラスのあの黒い岩肌は全く見えません。
勝手なものでだんだん馬に乗るのが辛くなってきたな、と思っていた頃、
前を歩いていた仲間の馬が前脚を蹴り上げて、まるでスローモーションを見てるかのように、
背中からするっとあぶみからうまく靴を抜いて落馬されたのです。
うまい落ち方だ、さすが若い子だわーと感心してる場合じゃない、
大丈夫?!
声をかけるしかできず、でも、気を張ってるんでしょう、すぐ立ち上がって大丈夫です!って返してくれました。
思いがけないことに気を引き締め、深呼吸しながら、ぼちぼち嫌になってきたらしい馬が勝手に歩きたがるの引っ張れと綱を持たされ、より緊張しながらお尻の痛さに閉口しながら降りて来ました。
また急にここから下りが続くので歩いてください、との指示で歩いて降りました。
今度はゆっくりと1人で歩きました。カイラさんがすぐ横に来て
「大丈夫ですか?」「はい、大丈夫です」
自分では余裕が感じられるくらいでした。
川の色がなんとも言えず緑色に輝くようで、よく見たくて川側を歩こうとしたら
カイラさんに叫ばれました。
「太田さん、絶対ダメ!川に落ちたら終わりですから!山側、山側歩いて!」
慎重で勤勉なネパール人気質だわーと思ったけれど、
余裕のつもりが結構よろよろしていたらしくてごめんなさい(^^;;
馬子さんからリュックを受けとって、お礼を言って(ジェスチャー)みんなで口々に
「よかったね!本当によかったね!」
興奮冷めやらず、テンション高く、ホテルに戻りました。
今日はシャワーして、晩御飯までゆっくりしてくださいと言われ、ほっとしたら
あれ?ゴロゴロピカピカ、ジャージャ!?雷雨です!降りてきてすぐの雨。
山なら間違いなく雪で吹雪いているとのこと。
山で馬で吹雪いたら間違いなく立ち往生。。。
当初の予定なら今日は2日目、1番高いあのダルマラを目指していた辺りだろうと思うと、
この幸運に震えてきそうでした。そして、
先生は護られていらっしゃるなと、歴代の師匠方、ヒマラヤの大師方の恩恵をつくづく思いました。
先生が師匠(マハラジ)への感謝の気持ちや恩返しのために、ヨーガの智慧を伝え続けていらっしゃること、そのことを誰よりもよくご存知で護ってくださってるんだ、と思うと、
本当にありがたい思いでいっぱいでした。